【STJ第2号掲載】ふきのとうホール特集 (3)
さっぽろ劇場ジャーナル第2号(2018年10月発行)で多くの反響があった「ふきのとうホール特集」。紙面に掲載した特集を4回に分けてWebでも掲載しています。第3回目となる今回は、ふきのとうホールのアシスタントミュージックディレクターである櫻井卓さんのインタビューです。(第1回目と第2回目はこちらからどうぞ。)(事務局)
2018年10月1日、当インタビューと同じ日に、ふきのとうホールの音楽監督の岡山潔先生が逝去されました。岡山先生のご冥福を心よりお祈りいたします。
ふきのとうホールのアシスタントミュージックディレクターの櫻井さんに、ホールの音響や主催公演についてお話を伺いました。
多田 櫻井さんはいつ頃からこのホールに関わられていらっしゃいますか?
櫻井 最初に関わったのはオープニングの2015年5月、このホールを作るにあたり、音楽監督の岡山潔から依頼されて音響アドバイザーのような立場で最終的な音響チェックに立ち会ったのが最初です。不運にもオープニング直前に岡山が体調を崩された為に、日浦さんと、ステージマネージャーの中嶋と私の三人でオープニングの現場運営を切り盛りしました。
多田 ホールの音響面と、コンテンツ面でのコンセプトをお聞かせいただけますか。
櫻井 岡山は何しろここを世界一の室内楽のホールにしたいという夢を持っておりまして、それだったらどのような音響にすればいいかという考えで作業にあたったのですが、何回かこちらに来ているうちに、室内楽だけではなく古楽やギターですとか、他のホールでは満足して聴けないようなものもとても素晴らしく響くことが分かってきました。そこで岡山ともそういったコンサートを増やしたいと話をしていました。ただ岡山もオープニングの時に古楽アンサンブルアントネッロを入れておりましたので、このホールが古楽に適性があるということは当初から理解していたのだと思います。また、良いチェンバロ(カッツマン)もありますので、借りてこなくても済みます。いろいろなホールにチェンバロはありますが、だいたい死蔵されていることが多い。幸いここのチェンバロは使っていただく方に皆さんに好評をいただいていますし、やはり楽器は使わないとどんどんダメになってしまうので、できるだけ利用するようにと思っています。
多田 櫻井さんから見たホールの特徴とはどういうところだと思いますか?
櫻井 まるで自分の部屋に音楽家の方に来ていただいて演奏を楽しむような、直接対話ができるような距離感、親密感というのを保てるホールだと思います。また音響も演奏者が創意工夫して作ってくださった細かなニュアンスや表情が非常によく伝わると思います。響きがすごく多いとは思うのですが、それに邪魔されることなく、表情がダイレクトに伝わってきますので、本当に直接お話しているように音楽を楽しめるホールだと思っています。ただ、ごまかすことができない分だけ怖いところがあるんですけれども。
多田 次に、ふきのとうホールは主催公演で素晴らしい演奏家の出演を継続的に実現しておられます。出演アーティストの選定のコンセプトをお聞かせ願いますか?
櫻井 出演者に関しては岡山の審美眼にかなった演奏者を選んでいます。言い方は難しいのですが、音楽の本質を的確に表現してその曲のもつ真価を聴かせてくれるような方を選んでいると思います。もうひとつ、可能性のある若い方と、ある程度の評価を得た方をうまく岡山が混ぜて呼んでいるので、そういう意味でのバランスがとてもいいと思います。
多田 言われてみるとそうですね。白井光子さんがいらっしゃったりとか、クァルテット・ベルリン・トウキョウだったりとか。
櫻井 来年(2019年)の1月にはこの前ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝した葵トリオがもう入っています。コンクールの前に出演を決めてありました。
多田 無駄をそぎ落とした、シンプルな音楽をする方たちが多いという印象があります。
櫻井 そうですね。私もそう思います。岡山はここを室内楽の発信基地にして、世界に発信できるようにしたいというのを常に言っているんですけども、僕は少しその逆の部分もありまして、地域性というのがやはりあると思うんですね。ですから札幌のみなさんに「ここに来れば良質な室内楽が聴けるな」と認知してもらえるホールに、まず育ってほしいと思っている部分はあります。
多田 なるほど。それはもう、同じ事柄の両面ですね。
櫻井 裏表ですね。まったくそう思います。
多田 室内楽は比較的高度なクラシックファンに好まれる分野という印象があります。地方都市での興行は簡単ではないと思います。その点について、オープンから3年経ちましたが手応えはいかがでしょうか。
櫻井 難しい質問ですね。まず室内楽については、特に弦楽四重奏は、ある部分、音楽の要素だけを抽出したような、エンターテイメントな部分をほとんどそぎ落として、純粋に音楽を追求している作品が多いと思いますね。ただ、ほとんどすべての作曲家が生涯にわたってクァルテットを書き続けている。だからやはりそれは自分の音楽を実現するために必要なジャンルだし、考えを成熟させていくためには避けて通れない道だったと思いますね。残された作品には価値のあるものがとても多いと思うので、できるだけ多く機会を作って、そのちょっと高い敷居を取り除くことがこのホールの使命かなとも思っています。
多田 作曲家って、本当に自分の正直な心情をクァルテットで吐露しているという面はかなりありますよね。
櫻井 まったくおっしゃる通りですね。クァルテットには作曲家の核があると思います。クァルテットをもとにして、ではそれをシンフォニー、ピアノ、管弦楽だったらどうするかと進めている。ですから何らかの方法でもう少し室内楽の発展というか普及に寄与できればなと思っています。何しろ良い演奏家の方に来ていただいて、良い演奏をしていただくことですね。やはり実演の影響力ってすごいじゃないですか。コンサートで聴いてこの曲いいなと思った曲は一生忘れないですよね。そういう演奏が聴けるようなホールにしていきたいなと思っています。
多田 無駄を削ぎ落した核心を大切にする。これはお菓子でも文化活動でも六花亭の魂ということなのですね。六花亭さんがどのような会社なのかよくわかるお話でとても興味深いです。ありがとうございました。
(2018年10月1日 六花亭札幌本店にて)
櫻井さんと編集長の話はまだまだ続きます!
次回(最終回)もどうぞご覧ください。(事務局)