<ピアニスト 押切雄太の名曲ミニレクチャーⅡ>ショパン「ノクターン」-ポリフォニーの視点から-(執筆:押切雄太)
- ピアニストの押切雄太です。
以前、ドビュッシーの亜麻色の髪の乙女についてのミニレクチャーを寄稿させていただきました。編集長から「すごく好評だったのでぜひ続編を」と依頼を受けまして、このたび第2弾となりました。今回はショパンのノクターンを題材に、アナリーゼのヒントをお話しようと思います。
さて、突然ですが質問です。ノクターン第1番 Op.9-1 の冒頭(譜例1)、この部分は何声の音楽としてみることができますか?
普通にみたら右手が1声、左手が1声で計2声!と思ってしまいがちです。ですが、それだと立体的でゾクゾクするような音楽とは程遠い演奏になってしまいます。楽譜を色分けして声部毎を繋いでみたものがこちらです。
左手パートをただシ♭、レ♭、ファの和音(B♭m)が分散されただけの1声部だとは思わずに、5声に分かれていると解釈すると途端に世界が広がります。
このノクターンのような作品は特に、右手は主旋律、左手は和声の伴奏というホモフォニー(和声音楽)的に解釈されやすいですが、じつはポリフォニー(多声音楽)的要素を見出すことで全く質の違う音楽が生まれます。
これらの声部毎の横の繋がりは、音符を指で保持して演奏するわけではないですが、それぞれの音の横の動きを意識して響きをどのように空間に溶けこませるかが大事です。そこにペダルを少し加えて演奏すると。左手が8分音符単位で積み重なりコラールのように立体的に聴こえてくるのです。
そのように演奏できると響きが立体的になり、1音1音に宿る情報量が増えます。
さらに声部の組み合わせの相乗効果によって様々な表情が生まれます。それは聴き手側の想像力をかき立てることにも繋がるはずです。
続いてノクターン第2番 Op,9-2 でも考察してみましょう。
また、譜例4のように少し動きを加えてみることもできます。
ポイントは左手の二つめの8分音符のミ♭の音が、譜面上は1つの音にしか見えないですが、実際は2つの声部が重なっていると考えてみることです。それぞれミ♭→ソ(赤)とミ♭→ミ♭(黄色)と動きます。左手の可能性が色々広がりますね。
もう一つ、ノクターン第14番 Op.48-2 を例に試してみましょう。
同じショパンでも後期の作品になってくるとより対位法的要素が強く感じられるようになってきます。左手がどの声部をとっても美しく動いています。そしてそれぞれが絶妙に絡み合っていますね。
今回はショパンのノクターンを例にしてみましたが、ショパンのその他の作品やショパンだけに限らずに色んな作曲家の作品でも、応用して同じようにポリフォニー的に分析することができます。
クラシック音楽の数多の名曲のほとんどには、ホモフォニー的だと思われていても実際にはポリフォニーの要素が非常に多く隠されています。
その要素を演奏者はどれだけ引き出せるか、また聴き手側もポリフォニーを聴き分けられる耳をもてるかが非常に重要であり、そうすることで作品の芸術的価値をより認識しやすくなるはずです。
その訓練として、演奏者だけでなく普段音楽を広く愛して聴かれている方にもお勧めしたいことが2つございます。
1つめは合唱の経験を積むこと。
2つめはスコアを見ながら、各パートをそれぞれ目と耳で追いながら何回も音楽を聴くことです。まずはベートーヴェンの弦楽四重奏曲でやってみることを是非お勧めいたします。
そうすれば、音楽をもっと深く味わって聴けるようになりますよ。
最後に、私事で大変恐縮ですが演奏会の宣伝をさせてください。
11月に東京、大阪、札幌にてピアノリサイタルを開催いたします。
ショパンは弾きませんが… バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの作品を演奏させていただきます。もし宜しければ是非聴きに来てください!
押切雄太ピアノリサイタル東京 大阪 札幌 programバッハ ご予約方法下記のフォームにて、お間違いのないようにご予約お願いいたします。 ※札幌公演は |
<著者紹介>
押切 雄太(Yuta OSHIKIRI)
1992年札幌市に生まれる。札幌大谷大学芸術学部音楽学科ピアノ演奏コース卒業。在学中に大谷賞を、修了時に学長賞を受賞。平成24年度札幌市民芸術祭新人音楽会にて大賞受賞。
第7回札幌大谷大学定期演奏会にてリストのピアノ協奏曲第1番を同大学オーケストラと共演。その他様々な演奏会に出演。
これまでにピアノを内山いづみ、谷本聡子、小林仁、越田麻美の各氏に師事したのち、現在は大野眞嗣氏の下で学ぶ。
北海道文教大学人間科学部こども発達学科 講師
トランペットアンサンブルLaChoce ピアニスト
北海道音楽サークル「楽」代表
押切ピアノ教室 主宰
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